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元日本語教師の海外日記

元日本語教師・英語教師/現言語教育コンサルタントのブログ🌻

聴解試験のスコアを上げるには

実際の聴解能力を聴解試験では測られていない
IELTSやJLPTなどの能力試験対策についての記事はごまんとあるので、
ここで対策方法を書くつもりはないのですが、どうして試験対策が必要なのかを言語学の観点から話そうと思います。

聴解をボトムアップ処理で万全にカバーできる能力があれば単純な話ですが、実際にはそう簡単にいかないのが試験です。

トップダウンボトムアップ処理についての記事) 


実際の聴解能力と聴解試験が大きく違う点は
・ほとんどの外国語試験は選択式
・ある程度の聞き取りと推測で得点が得やすい


各試験によって特徴が異なるので、試験対策をしっかりして、
トップダウン処理を有効に活用すれば高得点を狙える可能性が高くなります。

でもこれでは実際の聴解能力を測っていることになりません。

実用能力試験は万能ではない
あるアイルランド人が他の英語圏でのビザを得るためにIELTSを受けた話があります。

アイルランドにはアイルランド語もありますが、英語圏なので必要スコアを得るのには問題がないように一見見えますよね。

Kachruの分類からもアイルランドは内円国に位置し、拡大円に位置する私よりも格段に高スコアを狙えそうです。

(英語の内円、外円、拡大円についての記事)

 
もしこの人がみんなの予想通りに必要スコアを得てビザ申請したならここまでニュースになりません。

この話が人々の興味を引き付けた理由は英語母語話者に関わらず必要スコアを取れなかったことです。

このニュースを少し前に読んだことがある方もいるかもしれませんが、
英語が母語の受験者なのにどうして必要スコアが取れなかったんだ?と話題になりました。

この手の話はIELTSに限らずJLPTでも他の外国語の能力試験でもよく聞く話です。
どうしてこんなことが起こってしまうのか?

それはまず冒頭で述べたように、能力試験は試験慣れや試験のコツを掴めば自分の実力以上のスコアを比較的取りやすいですし、試験慣れしていなければ本来の実力よりも低いスコアがでることが十分にありえます。

試験で測られる言語の基準は一体何か?
例えば英語試験なら出される音声は内円や外円の英語が音声で出題されることはあるでしょうが(外円は滅多にないですが)、拡大円の英語はでてこないでしょう。

日本語能力試験も同じですが、標準的な語彙やフレーズが使われ方言やスラングもでてきません。

これはよっぽど特化した言語試験じゃない限りどれも同じだと思います。

流される音声は一回きり、間が空くことなく長時間で一方的に聞くには相当の集中力も必要です。
単純に聴解能力を測られているわけでないので、聴解試験対策は他の能力よりも伸びにくいですし対策するのには苦労します。
もし聴解試験のスコアに伸び悩むことがありましたら、トップダウン処理の意識とその能力試験のコツをしっかりと把握することで変化がでてくると思います😊

実際にリスニングが上がった方法(続編)

前回の続き
『最後まで聞いていなかった』
『午前と午後を勘違いした』
集中力が続かないと本当に単純な理由で点数を落とした学習者をたくさんみてきました。

聴解は学習する側も指導する側もとっても厄介な能力だと思います。

まず、慣れない言語を聞く作業は思ったより集中力が途切れやすいです。


知らない単語に惑わされ全部聞かずに終わる学習者の場合
これはまさしくまだNZに行って日が浅い頃の私です😅 

(中学卒業後にNZの高校に行っていた時の話)


だんだんと耳が慣れてきて単語が拾えるようになったら、早く意味理解をしたいのが学習者の気持ちだと思います。

このころ、学習者の頭の中では意味を知っているものと知らないものが明確になっています。

特に私は聞き取りの際に知らない単語が気になって気になって。
無意識に知らない単語の意味を考えたりと、途中で気が逸れることが多かったです。

効果があった練習方法
ボトムアップ処理で聴解能力を上げるには、全文をしっかり聞き取るのが大前提です。

このタイプの学習者には穴埋め方式のディクテーションで意味理解から気をそらし、全文を聞くことに集中してもらう方法が有効です

特に文の途中と最後を抜いた穴埋め方式にすることで、途中で止まることなく、音を聞くことに集中してもらう目的があります。
ボトムアップ処理について)



それか、レベルにあった短文を選んでするディクテーションも効果があります。

穴埋めではなく全文のディクテーションでスペルに躓いてもとりあえず書き取り、最後まで聞く忍耐力を養うことが重要です。
(練習目的は聴解なので、スペルは答え合わせの時に自分が分かれば大丈夫です)

単語や助詞の切れ目を間違ってしまった為に意味理解ができない場合も多いので、確認の際には単語数や特に単語や助詞の切れ目があっているかも確認します。

とりあえず、この学習者に必要なものは妨げるもの(知らない単語や文法)があっても集中して聞くことが大事です。

意味理解の処理に時間がかかる学習者の場合
単語や文法のインプットが少なく、理解が浅い学習者に多いタイプです。

意味が出てこずに止まってしまったら音声はどんどん進み、置いて行かれてしまいます。
ボトムアップ処理には頭の中で意味を素早く処理する能力も必要です

記憶の種類については別記事で書きますが、新しい記憶や頻繁に引き出す記憶は比較的に記憶に残りやすいです。

頻繁に引き出す記憶としてはアウトプットの多さが関わってくるので、できるだけ多くのアウトプットの機会を学習者に与え、記憶のメカニズムを利用することで有効に働くと思います。

効果があった練習方法
この学習者タイプに効果的だったのは教室内で指導者が単語を読み上げ、学習者が意味を書くという単純作業を繰り返し行うことでした。

『1、2、3、4、5』と5秒くらいカウントし、次の単語を出題することで緊張間を保ち練習することができます。

最近学習した内容の復習や、事前にインプットしてきてもらい記憶が新しい状態でアウトプットをするようにスケジュールを組みます。

単語から難易度を上げて最近学習した文法の短文翻訳も効果的ですが、大事なのは出題者が読み上げることです。

頭を使う練習なので長時間することはおすすめしませんが、アウトプットの原理を利用して行える練習方法だと思います。

リスニング練習方法と特徴

地の聴解能力と試験対策の聴解は別もの
前回の記事で聴解能力について書きましたが、今回は自分にあった練習方法を見つけられるように特徴と解決策を紹介しようと思います。

試験対策のための聴解技法ではなく、地の聴解能力を上げる練習のみ取り上げています。

リピーティング
手本となる音声に続き発話練習をすることで学習言語に慣らしながら練習するこの方法は、義務教育で英語を学んだ人は経験したと思います。
一番オーソドックスで、大人数を対象にする教室学習でよく使われる方法といえばこれだと思います。

自分の声で発音することにより、音の特徴をつかみ、耳を慣らせる目的があります。
これと似たのにシャドーイングがあります。

シャドーイング
この方法は前述の練習に似ていますが、見本の音声の発話が終わるのを待つ前に続けて発音練習をする方法です。

リピーティングと同じで、発声による耳慣れを目的にしていますが、瞬発的に文章を発話することで音処理能力を速める目的もあります。

リピーティングとシャドーイングでは、発音の正確性も確認しなくては語彙の理解ができなかったり、発音の癖がついたりするので注意が必要です。

英語学習での例を挙げると
RubberとLover
日本語母語話者にとってはRとL、BとVの音の区別は難しいですが、スペルに意識を向けないと意味もまったく違うものになってしまいます。

ディクテーション
聞いた音声を文字に書き写す練習方法。

全文を書き写す方法や、穴埋めをする方法もあり、学習者のレベルによって調整ができます。

リピーティングやシャドーイングと違って、文字に残すので学習者の弱点を見つけやすいのがこの練習方法の特徴で、どの学習者レベルにも向いています。
ただ、音を書き写す際にスペルがわからないなどの要因で練習に影響を与えることがあることも留意したほうがいいです。

実践的な聴解練習に進む前に、学習言語に耳慣れするためにも初心者が上記3つを使うことが多いです。

スクリプトとの聴解練習
発音はせずにスクリプトを目で追いながら音声を聞きトレーニングする方法。

音声と文字を結びつけやすく、発音するストレスもなくできる
しかし、文字の方ばかりに気を取られ聴解練習にならないこともあるので使い方に注意が必要。

同じことが映画の字幕、歌詞にも言えます。
人の脳は読むことと聞くことと一緒に処理することはなかなかできません。
(同じ理由で、聴解試験で問題や選択肢を読みながら音声を聞くのも絶対におすすめしません。)

文字情報や映像などと一緒に処理する聴解能力はトップダウン処理に属します。

例えば、中国圏の学習者は字幕に書いてある漢字をみて予想をすることができます。
書いてある漢字で予想ができてしまうなら、それは聴解能力練習の邪魔になり学習者にはプラスにはなりません。
この例で言いたいことは、学習者が得意とする能力が聴解能力よりも高かったらそれが練習の邪魔をしてしまうということです

特別な例がない限り、言語学習者は語彙や文法能力が聴解能力よりも勝っていることが多いので、自身の傾向を把握して聴解練習を組み合わせながら進める必要があります。

次回の記事には上記を踏まえて、多数に効果があった練習方をタイプ別に紹介していますので、参考になれば嬉しいです🌻

 

 

嫌な思いを避けるために(異文化ニュージーランド)

『ジャバウォックの詩みたい』=ナンセンス
海外の人とコミュニケーションを取ったことがある人は、言葉が話せてもスムーズにコミュニケーションができないという経験をしたことがあると思います。

『お辞儀をする』などの目に見える文化は意識しやすいですが、目に見えない文化には自分から気づくことは難しいです。
そしてその見えない文化はコミュニケーションを取るために意外に重要だったりします。

文化は聞き手の役割で分けられている
文化人類学者のHallはコミュニケーションのタイプを高文脈文化・低文脈文化に分けています。

高文脈文化(ハイコンテクスト文化):
言葉で発された以上の情報を相手が察することが前提の、『言わなくても伝わる』を期待している文化。

実際に、高文脈文化の中でも高い指標を持つ日本は空気さえも読むことが期待されますよね。

低文脈文化(ローコンテクスト文化):
高文脈文化とは逆に、発せられた情報以上のことを受け取る必要はなく、『言わないと伝わらない』文化。

ただ文脈への依存度が高いか低いかということなので、文化度の高低を評価しているわけではありません。

日本での礼儀正しいとされている誘いへの断り方

日本では直接断らなくても、抽象的に約束をして実際には予定は立てない『社交辞令』をすることがよくありますよね。

お互いに日本語を母語とする話者であったら、雰囲気や言い方、表情などの非言語的要素でやんわりと理解したり、後からになって『社交辞令だったのか』とちょっとがっかりしたりすることも高文脈文化の特徴だと思います。

『友達に時間があるときにって言われて、結局会えなかった』

集団主義に属する日本では断る時も、相手のメンツを立て“和”を重んじる方法が確立されています。

日本語学習者がこの日本の文化を知っている/いないのとでは日本への印象もずいぶん違うと思います。

 (集団主義個人主義についての記事)


間違った印象を与えなくてすむように
低文脈文化に属する国は多文化国家が多く、言語や文化が違うと『言わないとわからない』ことばかりだからこそ低文脈文化が根付いたとされています。
なので、移民も少ない単一言語国家の日本で育った私たちは自分たちが気づかない以上に文脈から推測するのに慣れています。

『あの頃はほんとにジャバウォックの詩みたいだったよ』
ニュージーランドの高校で出会った友達は、ふと笑いながら言ったことがありました。
『最初話したころはなぞなぞっぽかった』

ジャバウォックはその独創的すぎてナンセンスな詩で有名なルイスキャロルの作品です。
『あれ』とか『それ』で通じるコミュニケーションに慣れていた私はニュージーランドでも同じような感覚でコミュニケーションを取っていました。
そして、話す内容も抽象的で掴めなかったと思います。

そんな私も今では低文脈文化に慣れてしまい、日本の友達と話すと特に『ごめん、あれってなに??』と不思議がる立場になってしまいました。

よく『外国に染まる』というマイナスな言い方をしますが、その大抵は異国の地で暮らすために順応した非言語コミュニケーションの現れです。

私は中学卒業後に海外に出て文化の違いを教わる機会もなかったので、ミスコミュニケーションをした後でないと違いに気づくことがありませんでした。
文化の違いを知っていれば与えずに済んだ印象やしなくてもいいミスコミュニケーションも多くあったでしょう。

言語学習は言語だけに目を向けがちですが、相手がいてのコミュニケーションなので文化の違いも併せて学ぶと円滑なコミュニケーションに一役買ってくれると思います。

外国語が話せるようになる条件

外国語を話せるようになる条件
長期留学したら話せるようになるのか?

どのくらい行ったらいいのか?

学習している目的言語を実用化するために留学は有効な手段に思えますよね。
どの程度を『話せる』とするかによっても差はありますが、ここでは日常会話ができるレベルとして話します。

言い回しやアクセントを学ぶには会話は強い
器用な言い回しができたり、ネィティブのようなアクセントがあったりする学習者には驚かされます。

フィリピンでの例を出すと、日本に出稼ぎに行っていた人にこの学習者タイプが多く、基礎知識がないまま会話の中で日本語を学んだ人がほとんどでした。
こなれた言い回しや外国語学習者特有のアクセントが弱いことから、話す言葉だけを聞くと日本語の能力もかなりありそうだと思ってしまうほどの人もいました。

アクセントが弱いほど実際の言語能力も高そうに思いがちですが、会話からは細かい文法知識は学べません。

会話で学んだ学習者タイプに共通する悩みが実用能力検定の勉強に躓きやすいということです。

これは日本語に限らず、言語全般に言えます。

基礎の大切さ
何をするにしても基礎は重要で、築き上げる土台がしっかりしていないと崩れやすくなることは想像ができると思います。
言語教育方法の1つに会話などで学ぶフォーカスオンミーニングがありますが会話で学ぶ環境では細かい言語知識を学べませんので自分で勘違いした間違った文法規則ができあがっています。

例えば、会話の中でをよく聞く『だよ』を語尾に付けるものだと認識した学習者はその規則を過剰に使うことがその1つです(過剰般化)。
本来ナ形容詞と名詞に使うべき文法をイ形容詞や動詞にも過剰に当てはめてしまうミスの種類です。

文法の基礎知識があれば後々に気づくこともありますが、基礎がないとそのまま化石化してしまい修正するのが難しくなります
(化石化:間違いが修正されることなく定着してしまうこと)

  
正確な文法知識で伝えたいことが伝えやすくなる
子供が言語を習得する過程と臨界期を過ぎた大人の学習過程は異なります。

話を戻しますと、
日本の義務教育の英語では文法知識を主に学びますし、専門的な会話をしない限り、日常会話に必要な英語力は中学生で学ぶ文法で足りると言われています。

現に、私もニュージーランドに行ったときの英語知識は中学レベルでした。

海外に行って目的言語を上達させるためには、基礎とアウトプットの機会次第です。
基礎がしっかりしていないと誤った言語知識を身につけやすくなってしまいますし、伝えたいことの幅も狭くなってしまいます。
そして、会話から入った言語学習は後に苦労しますが、基礎があって会話力を伸ばすのはアウトプットする機会次第で大きく飛躍できます。

会話には聴解能力の有無も大きく左右しますが、基礎とアウトプットの機会さえあれば短期間の渡航でも駅前留学でも十分な成果が出ると思います。

逆にこの条件がなければ1年でも10年経っても使えるようにはならないでしょう。
それほど基礎と機会は重要です。

関連記事🌻🌻
フォーカスオンミーニングなどの言語指導法について書いた記事です。