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元日本語教師の海外日記

元日本語教師・英語教師/現言語教育コンサルタントのブログ🌻

やる気がでない学習者、どうして? (自己決定理論と動機付け)

意欲が低い学習者、理由は?

意欲が低い学習者はどんな学校でもどんなクラスでも必ずと言っていいほどいると思います。

学習内容に興味がない。

親にやらされている。

先生と合わない。

上達しないから。

その原因を挙げていけばきりがないほど多くの理由を持つ学習者に出会ってきました。

授業内容に集中したいところですが、意欲が低い学習者がいたらクラス内で差が出たり、準備した授業も受け手である学習者が受け止めてくれなかったら意味のないものになってしまったりしてします。


外発的動機と内発的動機
以前書いた外発的動機と内発的動機の記事が関係しているので大事な部分をまとめると、
(元記事は学習者目線で書いてあります。下の関連記事からどうぞ。)

学習者の動機には段階があって、学習意欲が高い順から

内発的動機:学習自体に楽しみを感じる段階

 

同一視的調整:学習で得られる利益に意欲が高まっている段階
(日本語を勉強して日本でお金を稼ぎたいという動機など)

取り入れ的調整:学習をすることで自分のメンツを守る段階
(クラスで恥をかくから勉強するなど)

外的調整:他者からの影響で学習している段階
(親に言われたからなど)

学習者の動機が上記のどの段階に位置しているのか把握することは対処方法を模索する上でとても役に立ちます。


自己決定理論
動機の段階がわかったところでいきなりですが、

関係性(学習者と指導者の関係)

有能性(内容の有能性)

自律性(学習者の自律を促す)

この3つの要素、学習環境に欠けていそうなものはありますか?

学習者がどの段階にいるか把握したら、学習意欲の要となる動機を内発的動機へと引き上げる方法を考えなくてはいけません。

この過程に関係してくるのがDeciとRyanが唱えた自己決定理論です。

人には持って生まれた成長意欲、探求心や活動意欲などがあって、それが成長の際に置かれた環境下によって影響を受けるとしています。

幼い赤ん坊は視力がしっかりし始めたら周りのものに興味を持ちだしますし、
喋るようになったら『どうして?』『なんで?』とこちらが圧倒されてしまうほど好奇心旺盛ですよね。

その『知りたい』という意欲も大きくなるにつれて、減ったり特定の事柄にしかなかったりと変化がでてきます。

きっと多くの人が経験しているので想像しやすいと思います。

この心理学的考えが言語学習にどう関係があるかというと、
大人になった学習者が意欲を取り戻せるような環境をどう整えるかが鍵ということです。

人は本来、成長して満たされた自分にする目的であらゆる意欲が備わっているとされています。
上記の関係性・有能性・自律性はその環境整備に不可欠な要素になります。
その環境を整えることで、学習者が本来持っている知的探求心に働きかけるという仕組みです。
 

学習意欲の低い学習者に必要なもの

学習者は各々理由を持っているので、その対処をするのは大変な作業だとも思います。


中には学習環境を整えるだけでは対処できないような個人の問題を抱える学習者もいます。

せっかく授業にでるならたくさん学んで欲しいですよね。

教師と学習者の関係なので踏み込めない範囲がありますが、学習環境を整えることは意識することで変えられることなので、次回は実例を挙げて書こうと思います。
その前に今回は理論の説明をまとめました😊

関連記事🌻

フィリピン留学(外円留学)

※住んでいた時にフィリピン人や英語教師から聞いた話を言語教育と絡めてまとめた記事です。

外円国で英語を学ぶ
フィリピン留学が流行っている今の時代、フィリピンへ行った留学生にオーストラリアでよく出会います。

フィリピンで英語に慣れた後、近くのオーストラリアにワーホリに来たそうです。

ヨーロッパの留学生にはマルタが人気のようですが、文化も比較的に似ているアジアの人はシンガポール、特にマリンスポーツもできるフィリピンの需要は年々上がっているそうですね。

フィリピンで英語は公用語の1つなので道路標識や公的文書などは英語が使われることがほとんどです。

Kachruの同心円モデルでみると、フィリピンは多言語国家なので外円に位置します。
公用語が英語だけの国は内円、日本は日本語のみの単一言語国家なので拡大円に位置します)

外円で効果的に英語を学ぶにはどうしたらいいでしょうか。

現地での英語使用率
私がフィリピンで経験した英語事情は下の記事にも書きましたが、経済中心地から離れるほど現地の人の英語力は弱いと感じました。

もちろん例外もあるのですが、
実際にフィリピン人同士で使うのはタガログ語などの現地の言葉がほとんどで、英語を使っているのを聞くのは限られた地域のみでした。
(BGCやMakati、Ortigasなど)

経済格差もあって学歴や人脈が就職に大きく影響するフィリピンでは、英語はステータスを誇示するものでもあるそうです。

内円のネイティブレベルに話せるほどの“いい教育”を受ける人は家族も裕福で人脈があるので、英語教師としての道ではなく外国企業に勤めたり他の道へ行ったりする場合がほとんどとも聞かされました。


外円で英語を学ぶ際の注意点
外円の英語が持つ一番の特徴がアクセントと言語転移とされています。
(言語転移:母語や優位にある言語の言語規則を第二言語に当てはめて使用すること)

どの英語にもアクセントがあるように、フィリピン英語にもアクセントがあります。

コミュニケーションに大事なのは伝わることです。

発音をしっかりとしていれば伝わるので、アクセントに優劣をつけるつもりはまったくありません。

でも自分が気に入っている目指したいアクセントがきっとあると思います。

アクセントに関しては色々な例がありますが、
ドバイで働きながらもインド人の同僚が多かった日本人の友人は、数年後インド風のアクセントになっていたのがとても印象に残っています。

よく聞くものや印象に残ったものが頭の中で採用されてしまう傾向があるので、留学した先の指導者や周りの持つアクセントの与える影響は大きいでしょう。
(英語に限らずどの言語でも)

パフォーマンスと心理的負担

せっかく留学したのだから後悔せずに練習に励みたいですよね。

試行錯誤してアウトプットし、能力の限界に気づくことは言語学習にとって欠かせない要因です。

それでは効果的にアウトプットの練習をするにはどうしたらいいでしょうか?

緊張していたら言葉が飛んだ。
プレッシャーから的確な判断ができなかった。
といった経験は多かれ少なかれあると思います。

では、お酒を飲んだら外国語が話せた。という経験はありますか?

学習自体に気が向きがちですが、これは心理的負担がパフォーマンスを上げているいい例です。

毎回お酒を飲むわけにはいかないので、心理的負担になる要素を意識的に減らしたり排除したりして環境に気を配ることが意外にも学習効率を上げる近道であったりします。

移民が多い国で外国人として過ごすのも楽しいですが、外国人が少なく興味津々でいてくれるフィリピン人とは英語を使う心理的負担も和らげてくれると思います。

それにフィリピンで出会った人々は陽気で寛大な人が比較的多かったです。

その点も含めて、アウトプットをする環境として最適です。

関連記事🌻

記憶の特性とリハーサル

前回からの続き

学習の鍵はワーキングメモリ
ワーキングメモリは取り入れた情報を短期的に保持して処理する記憶システムのことです。

どうしてワーキングメモリが学習の鍵を握っているかというと、新しい内容を学ぶ頭の中では、与えられた情報を自分なりに処理しています。

中央実行系と呼ばれるシステムが長期記憶にある既存の情報と新しく得た情報を照らし合わせながら理解を進めるため、ここで情報の理解に躓くと長期的にも学習に支障がでてしまいます。

身近な働きとしては、聴解・読解問題を解く際、既に処理した情報を頭に残しながら新しい情報を取り入れ理解を進めていくことが挙げられます。

短期的に前の情報を頭に残していなければ、次の情報と繋ぎ合わせ、情報の全体像を掴んで質問に回答することは難しいです。

ワーキングメモリが弱い特徴としては
・集中力の散漫
・指示通りに物事を処理することが困難     

聴解能力の記事で集中力の大事さについて触れましたが、ワーキングメモリも集中力に密接に関係しています。
(言語能力は別として)

例えば、ネットを使って動画を観ているときにネット環境が悪く動画が途切れ途切れになると動画に注がれてた注意がなくなってしまいませんか。
スムーズな情報処理ができずに躓いてしまうと集中力も途切れてしまいます。

(集中力の聴解試験での重要性の記事)

 
ワーキングメモリの上限は7±2
私たちのワーキングメモリが処理できる容量は(対象や情報の種類によりますが)7±2の数と上限があって(電話番号の桁数・単語の音韻数など)、情報の数と同様に情報を取り込む速度もワーキングメモリの処理能力に影響しています。

ここで触れたいのが聴解試験対策としてよく挙げられる方法。
・試験音声を視覚化する(絵を描いたり、光景を思い描いたりなど)
・キーワードを書きとる

これはまるごと情報を処理するとすぐ7±2の上限になってしまうので、一度に処理する情報量を分散させ分けることで処理の負担を減らすというワーキングメモリの特性を生かした方法です。

短期記憶から長期記憶への移行(記憶の二重貯蔵モデル:Dual Storage Model)
記憶の説明でよく使われるのがAtkinsonとShiffrinが唱えた記憶の二重貯蔵モデルです。

長期記憶が短期記憶よりも容量が大きいのですが、その理由は短期記憶で必要な情報が淘汰され長期記憶へと移行されていくためです。

生きるのに必要な情報、“リハーサル”の回数が多い情報、強い印象がある情報は優先的に長期記憶へと送られやすくなります。

“リハーサル”には視覚的リハーサルと聴覚的リハーサルがあります。

視覚的リハーサルでは情報を思い描き(文字なら頭の中で音声化)、聴覚的リハーサルでは耳から情報を得ることを繰り返すことで、その情報が必要なものであると脳に印象付ける行為です。

記憶の特性を利用する
長期記憶へ移行させる方法としてよくあるのが

・覚えたい情報を反復する(リハーサル)
・失敗して印象付ける(エピソード記憶化→人に話すとリハーサル)
・人に話したり、実際に使う(リハーサル)
・五感や感情、既存情報と関連付ける(エピソード記憶化)

エピソード記憶で気を付けたい点は、リハーサルを十分に行っていないと長期記憶に移行した際に、意味ではなくエピソードだけ残ってしまうことがあります。

私が経験した例を挙げると、学校で辞書を使って調べた英語のフレーズがその晩に観た映画にそのまま出てきたということがありました。
あまりにも偶然ですごく驚いたので、その出来事は十年以上たった今も鮮明に覚えています。
でも、そのフレーズがなんだったのかは残念ながら覚えていません。

その逆で、普段使っている単語も意味は覚えていますが、どうやって覚えたかのエピソードは覚えていないと思います。

これは印象の強さから長期記憶へと送られたのではなくリハーサルの多さなどからも意味記憶として定着した例といえるでしょう。

自分に合った方法を探すには特徴の理解から
様々な実験からも万人に同じような成果がでる学習方法を確立することは、現在の技術では困難であるとされています。

同じ方法で学習しても出る結果は人によって差があるという経験、同じだけ勉強しているのに自分よりも結果がいい人がいるという経験をした人は多いと思います。

今回の記憶に関しても、書き写して頭の中で音声化する人や、音読して覚える人など好みも様々です。

好みと照らし合わせて、個々に合った学習方法を模索するためにも記憶の特徴は知っていて損はないと思います😊


関連記事🌻

  

聴解試験のスコアを上げるには

実際の聴解能力を聴解試験では測られていない
IELTSやJLPTなどの能力試験対策についての記事はごまんとあるので、
ここで対策方法を書くつもりはないのですが、どうして試験対策が必要なのかを言語学の観点から話そうと思います。

聴解をボトムアップ処理で万全にカバーできる能力があれば単純な話ですが、実際にはそう簡単にいかないのが試験です。

トップダウンボトムアップ処理についての記事) 


実際の聴解能力と聴解試験が大きく違う点は
・ほとんどの外国語試験は選択式
・ある程度の聞き取りと推測で得点が得やすい


各試験によって特徴が異なるので、試験対策をしっかりして、
トップダウン処理を有効に活用すれば高得点を狙える可能性が高くなります。

でもこれでは実際の聴解能力を測っていることになりません。

実用能力試験は万能ではない
あるアイルランド人が他の英語圏でのビザを得るためにIELTSを受けた話があります。

アイルランドにはアイルランド語もありますが、英語圏なので必要スコアを得るのには問題がないように一見見えますよね。

Kachruの分類からもアイルランドは内円国に位置し、拡大円に位置する私よりも格段に高スコアを狙えそうです。

(英語の内円、外円、拡大円についての記事)

 
もしこの人がみんなの予想通りに必要スコアを得てビザ申請したならここまでニュースになりません。

この話が人々の興味を引き付けた理由は英語母語話者に関わらず必要スコアを取れなかったことです。

このニュースを少し前に読んだことがある方もいるかもしれませんが、
英語が母語の受験者なのにどうして必要スコアが取れなかったんだ?と話題になりました。

この手の話はIELTSに限らずJLPTでも他の外国語の能力試験でもよく聞く話です。
どうしてこんなことが起こってしまうのか?

それはまず冒頭で述べたように、能力試験は試験慣れや試験のコツを掴めば自分の実力以上のスコアを比較的取りやすいですし、試験慣れしていなければ本来の実力よりも低いスコアがでることが十分にありえます。

試験で測られる言語の基準は一体何か?
例えば英語試験なら出される音声は内円や外円の英語が音声で出題されることはあるでしょうが(外円は滅多にないですが)、拡大円の英語はでてこないでしょう。

日本語能力試験も同じですが、標準的な語彙やフレーズが使われ方言やスラングもでてきません。

これはよっぽど特化した言語試験じゃない限りどれも同じだと思います。

流される音声は一回きり、間が空くことなく長時間で一方的に聞くには相当の集中力も必要です。
単純に聴解能力を測られているわけでないので、聴解試験対策は他の能力よりも伸びにくいですし対策するのには苦労します。
もし聴解試験のスコアに伸び悩むことがありましたら、トップダウン処理の意識とその能力試験のコツをしっかりと把握することで変化がでてくると思います😊

実際にリスニングが上がった方法(続編)

前回の続き
『最後まで聞いていなかった』
『午前と午後を勘違いした』
集中力が続かないと本当に単純な理由で点数を落とした学習者をたくさんみてきました。

聴解は学習する側も指導する側もとっても厄介な能力だと思います。

まず、慣れない言語を聞く作業は思ったより集中力が途切れやすいです。


知らない単語に惑わされ全部聞かずに終わる学習者の場合
これはまさしくまだNZに行って日が浅い頃の私です😅 

(中学卒業後にNZの高校に行っていた時の話)


だんだんと耳が慣れてきて単語が拾えるようになったら、早く意味理解をしたいのが学習者の気持ちだと思います。

このころ、学習者の頭の中では意味を知っているものと知らないものが明確になっています。

特に私は聞き取りの際に知らない単語が気になって気になって。
無意識に知らない単語の意味を考えたりと、途中で気が逸れることが多かったです。

効果があった練習方法
ボトムアップ処理で聴解能力を上げるには、全文をしっかり聞き取るのが大前提です。

このタイプの学習者には穴埋め方式のディクテーションで意味理解から気をそらし、全文を聞くことに集中してもらう方法が有効です

特に文の途中と最後を抜いた穴埋め方式にすることで、途中で止まることなく、音を聞くことに集中してもらう目的があります。
ボトムアップ処理について)



それか、レベルにあった短文を選んでするディクテーションも効果があります。

穴埋めではなく全文のディクテーションでスペルに躓いてもとりあえず書き取り、最後まで聞く忍耐力を養うことが重要です。
(練習目的は聴解なので、スペルは答え合わせの時に自分が分かれば大丈夫です)

単語や助詞の切れ目を間違ってしまった為に意味理解ができない場合も多いので、確認の際には単語数や特に単語や助詞の切れ目があっているかも確認します。

とりあえず、この学習者に必要なものは妨げるもの(知らない単語や文法)があっても集中して聞くことが大事です。

意味理解の処理に時間がかかる学習者の場合
単語や文法のインプットが少なく、理解が浅い学習者に多いタイプです。

意味が出てこずに止まってしまったら音声はどんどん進み、置いて行かれてしまいます。
ボトムアップ処理には頭の中で意味を素早く処理する能力も必要です

記憶の種類については別記事で書きますが、新しい記憶や頻繁に引き出す記憶は比較的に記憶に残りやすいです。

頻繁に引き出す記憶としてはアウトプットの多さが関わってくるので、できるだけ多くのアウトプットの機会を学習者に与え、記憶のメカニズムを利用することで有効に働くと思います。

効果があった練習方法
この学習者タイプに効果的だったのは教室内で指導者が単語を読み上げ、学習者が意味を書くという単純作業を繰り返し行うことでした。

『1、2、3、4、5』と5秒くらいカウントし、次の単語を出題することで緊張間を保ち練習することができます。

最近学習した内容の復習や、事前にインプットしてきてもらい記憶が新しい状態でアウトプットをするようにスケジュールを組みます。

単語から難易度を上げて最近学習した文法の短文翻訳も効果的ですが、大事なのは出題者が読み上げることです。

頭を使う練習なので長時間することはおすすめしませんが、アウトプットの原理を利用して行える練習方法だと思います。