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元日本語教師の海外日記

元日本語教師・英語教師/現言語教育コンサルタントのブログ🌻

できる気持ち(有能性と学習意欲)

自己決定理論、残りの1つ
子供のときにはなんでも興味を示し、
『できるよ!』とぐちゃぐちゃにしながら挑戦して大人を困らせていた私たちですが、いつのまにか少しずつその気持ちを失いながら大人になっていきます。

本来持つ意欲を引き出す要になる自己決定理論、
関係性・有能性・自律性のうち今回は『有能性』についてです。


小さい事でも『できる』と思ってもらうこと
自己決定理論の3つで一番学習者の心理に絡んだ欲求が有能性だと言えます。

学習者が『自分にはできる』と思ってもらうことが鍵になるからです。

自分にはできる。
自分に能力がある。
自分は役に立つ存在だ。

その満足感からさらに知識を重ね、課題に取り組み、自分をより高みへと持っていこうとする欲求が有能性です。

指導者からの言葉の重み
学習者はどんな時に有能性を感じられるのでしょうか?

レベル別にクラスが分けられている学校でも、学習者によって差がでることはよくあると思います。

自分よりもできる対象が近くにいると、比べて劣等感を感じてしまうのが人の心理です。

特に新しいことを学んでいる過程ほど劣等感を感じやすい時期はないと思います。

学習者が自分を肯定できなかったら、他に誰が肯定してくれるでしょうか。

前回の『関係性』の記事に、
一人一人に興味を持ち、強みを見つけ伝える大切さについて書きました。

有能性も同様です。

自分の能力に自信がない学習者に対しては特に気を配って有能性のバランスを整える必要があります。

指導者の言葉の影響力は想像以上です。

インプットは『 i +1』?
言語学者のKrashenはインプット仮説で
実際の能力よりも少し上の内容に取り組んで理解したとき、人の脳力は最も成長すると唱えています。

『 i +1』は与えられるべきインプットの水準を表し、
i が学習者の実際の能力を、+1は学習者が成長するために足すべきレベルを指します。

簡単すぎると学習者は飽きてしまい、
難しすぎると有能性を満たせずやる気を失う学習者もいるでしょう。

課題を与える時、間違いを訂正する時も学習者に合わせた『 i +1』を与えることが学習意欲を損なわないためにもできることです。

指導の経験や知識を生かして学習者に合った『 i +1』を
学習者に『自分にはできる』と思わせることは自己決定理論の最後の1つ『自律性』の刺激にも繋がります。

学習者が持つ学習意欲はどんな教材よりも学習者の能力を伸ばしてくれます。
次回、学習意欲の最後『自律性』に続きます😊

関連記事🌻

信頼関係を築くために(関係性)

関係性・有能性・自律性のバランス

学習意欲が低い学習者には、本来持っている意欲を刺激するために
関係性・有能性・自律性を満たす必要があるという自己決定理論の話を前回しました。


今回はその1つ、『関係性』に焦点を当てた記事です。

学習者との距離感

指導者と学習者の関係性は近すぎず遠すぎずなのが大前提です。

友達のような関係になると授業は楽しくなるかもしれません。
でも甘えが出たり、指導者としての尊厳を適度に保つのに苦労したりする指導者も見てきました。

だからといって、距離がありすぎると不必要なプレッシャーから学習者の伸びる機会を奪う場合もあります。

時代が変われば価値観も変わります。
価値観が変われば人の心理も変わります。

簡単に物が手に入り選択肢も多い今、合わない時には次に行きやすい時代でもあります。

笑顔を振りまく必要はないのですが、プレッシャーだけを与えるような関係では学習者はついて来ない時代に今はあると感じます。

注意する時や指導の時も、決して感情的にはならず、意図を説明し話すことは学習者に、というよりも一人の人に対しても大事だと思います。

文化によっては人前で注意することは親でもしない国もあるので、クラスの中の異文化にも気を配る必要があります。

見てもらっているという安心感とその影響力
教わった先生や指導者でどんな人が印象に残っていますか?

大勢の学習者がクラスにいるとそれぞれと関係を築くのは難しいかもしれません。
全員と深い関係を築く必要はありませんが、一人一人に気を配ることは大切です。

学習者にとって指導者は一人です。
指導者に気付いてもらったこと、誉めてもらったことを学習者は覚えています。

お世辞を言ったり無理に取り繕ったりするのではなく、

文字の書き方

課題の提出具合

声の大きさ

良い所は必ずあるはずなので、強みや良さ、頑張っていることなんでもいいので一人一人の個性に気付いて伝えることは思った以上に強い印象を与えます。

その場で学習者から反応がなくても、一人の指導者から誉められたことや気付いてもらったことは心に残るものです。

クラス内の課題でも宿題でも少しでも、一人一人添削をして一言でもコメントを残すことは、学習者の強み・弱みを把握する点でも、大勢の中でも埋もれずに見てもらっているという印象を与える点でもプラスに働きます。

それができなくても、授業で課題をする際には一人一人の作業を見て回って確認することで同じ印象を与えられます。

みんなの前では質問しづらいと感じる学習者も、回ったときに質問してくれたり、こちらも訂正しやすかったりします。

大勢いる中でもちゃんと見てもらえているの安心感もあって、適度なプレッシャーを与えることもできるでしょう。

見られていないと分かると気が抜けたり、意欲がなくなったりする人の心理を経験したことがある人は多いと思います。

興味を持つこと
適度な距離で信頼関係を築くことはお互いにとってもメリットです。

一人一人に気を配ることで学習者に興味を持て指導意欲を刺激するという利点もあり、
興味を持つことで良い所にも気付きやすくなると思います。

関連記事🌻

やる気がでない学習者、どうして? (自己決定理論と動機付け)

意欲が低い学習者、理由は?

意欲が低い学習者はどんな学校でもどんなクラスでも必ずと言っていいほどいると思います。

学習内容に興味がない。

親にやらされている。

先生と合わない。

上達しないから。

その原因を挙げていけばきりがないほど多くの理由を持つ学習者に出会ってきました。

授業内容に集中したいところですが、意欲が低い学習者がいたらクラス内で差が出たり、準備した授業も受け手である学習者が受け止めてくれなかったら意味のないものになってしまったりしてします。


外発的動機と内発的動機
以前書いた外発的動機と内発的動機の記事が関係しているので大事な部分をまとめると、
(元記事は学習者目線で書いてあります。下の関連記事からどうぞ。)

学習者の動機には段階があって、学習意欲が高い順から

内発的動機:学習自体に楽しみを感じる段階

 

同一視的調整:学習で得られる利益に意欲が高まっている段階
(日本語を勉強して日本でお金を稼ぎたいという動機など)

取り入れ的調整:学習をすることで自分のメンツを守る段階
(クラスで恥をかくから勉強するなど)

外的調整:他者からの影響で学習している段階
(親に言われたからなど)

学習者の動機が上記のどの段階に位置しているのか把握することは対処方法を模索する上でとても役に立ちます。


自己決定理論
動機の段階がわかったところでいきなりですが、

関係性(学習者と指導者の関係)

有能性(内容の有能性)

自律性(学習者の自律を促す)

この3つの要素、学習環境に欠けていそうなものはありますか?

学習者がどの段階にいるか把握したら、学習意欲の要となる動機を内発的動機へと引き上げる方法を考えなくてはいけません。

この過程に関係してくるのがDeciとRyanが唱えた自己決定理論です。

人には持って生まれた成長意欲、探求心や活動意欲などがあって、それが成長の際に置かれた環境下によって影響を受けるとしています。

幼い赤ん坊は視力がしっかりし始めたら周りのものに興味を持ちだしますし、
喋るようになったら『どうして?』『なんで?』とこちらが圧倒されてしまうほど好奇心旺盛ですよね。

その『知りたい』という意欲も大きくなるにつれて、減ったり特定の事柄にしかなかったりと変化がでてきます。

きっと多くの人が経験しているので想像しやすいと思います。

この心理学的考えが言語学習にどう関係があるかというと、
大人になった学習者が意欲を取り戻せるような環境をどう整えるかが鍵ということです。

人は本来、成長して満たされた自分にする目的であらゆる意欲が備わっているとされています。
上記の関係性・有能性・自律性はその環境整備に不可欠な要素になります。
その環境を整えることで、学習者が本来持っている知的探求心に働きかけるという仕組みです。
 

学習意欲の低い学習者に必要なもの

学習者は各々理由を持っているので、その対処をするのは大変な作業だとも思います。


中には学習環境を整えるだけでは対処できないような個人の問題を抱える学習者もいます。

せっかく授業にでるならたくさん学んで欲しいですよね。

教師と学習者の関係なので踏み込めない範囲がありますが、学習環境を整えることは意識することで変えられることなので、次回は実例を挙げて書こうと思います。
その前に今回は理論の説明をまとめました😊

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フィリピン留学(外円留学)

※住んでいた時にフィリピン人や英語教師から聞いた話を言語教育と絡めてまとめた記事です。

外円国で英語を学ぶ
フィリピン留学が流行っている今の時代、フィリピンへ行った留学生にオーストラリアでよく出会います。

フィリピンで英語に慣れた後、近くのオーストラリアにワーホリに来たそうです。

ヨーロッパの留学生にはマルタが人気のようですが、文化も比較的に似ているアジアの人はシンガポール、特にマリンスポーツもできるフィリピンの需要は年々上がっているそうですね。

フィリピンで英語は公用語の1つなので道路標識や公的文書などは英語が使われることがほとんどです。

Kachruの同心円モデルでみると、フィリピンは多言語国家なので外円に位置します。
公用語が英語だけの国は内円、日本は日本語のみの単一言語国家なので拡大円に位置します)

外円で効果的に英語を学ぶにはどうしたらいいでしょうか。

現地での英語使用率
私がフィリピンで経験した英語事情は下の記事にも書きましたが、経済中心地から離れるほど現地の人の英語力は弱いと感じました。

もちろん例外もあるのですが、
実際にフィリピン人同士で使うのはタガログ語などの現地の言葉がほとんどで、英語を使っているのを聞くのは限られた地域のみでした。
(BGCやMakati、Ortigasなど)

経済格差もあって学歴や人脈が就職に大きく影響するフィリピンでは、英語はステータスを誇示するものでもあるそうです。

内円のネイティブレベルに話せるほどの“いい教育”を受ける人は家族も裕福で人脈があるので、英語教師としての道ではなく外国企業に勤めたり他の道へ行ったりする場合がほとんどとも聞かされました。


外円で英語を学ぶ際の注意点
外円の英語が持つ一番の特徴がアクセントと言語転移とされています。
(言語転移:母語や優位にある言語の言語規則を第二言語に当てはめて使用すること)

どの英語にもアクセントがあるように、フィリピン英語にもアクセントがあります。

コミュニケーションに大事なのは伝わることです。

発音をしっかりとしていれば伝わるので、アクセントに優劣をつけるつもりはまったくありません。

でも自分が気に入っている目指したいアクセントがきっとあると思います。

アクセントに関しては色々な例がありますが、
ドバイで働きながらもインド人の同僚が多かった日本人の友人は、数年後インド風のアクセントになっていたのがとても印象に残っています。

よく聞くものや印象に残ったものが頭の中で採用されてしまう傾向があるので、留学した先の指導者や周りの持つアクセントの与える影響は大きいでしょう。
(英語に限らずどの言語でも)

パフォーマンスと心理的負担

せっかく留学したのだから後悔せずに練習に励みたいですよね。

試行錯誤してアウトプットし、能力の限界に気づくことは言語学習にとって欠かせない要因です。

それでは効果的にアウトプットの練習をするにはどうしたらいいでしょうか?

緊張していたら言葉が飛んだ。
プレッシャーから的確な判断ができなかった。
といった経験は多かれ少なかれあると思います。

では、お酒を飲んだら外国語が話せた。という経験はありますか?

学習自体に気が向きがちですが、これは心理的負担がパフォーマンスを上げているいい例です。

毎回お酒を飲むわけにはいかないので、心理的負担になる要素を意識的に減らしたり排除したりして環境に気を配ることが意外にも学習効率を上げる近道であったりします。

移民が多い国で外国人として過ごすのも楽しいですが、外国人が少なく興味津々でいてくれるフィリピン人とは英語を使う心理的負担も和らげてくれると思います。

それにフィリピンで出会った人々は陽気で寛大な人が比較的多かったです。

その点も含めて、アウトプットをする環境として最適です。

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記憶の特性とリハーサル

前回からの続き

学習の鍵はワーキングメモリ
ワーキングメモリは取り入れた情報を短期的に保持して処理する記憶システムのことです。

どうしてワーキングメモリが学習の鍵を握っているかというと、新しい内容を学ぶ頭の中では、与えられた情報を自分なりに処理しています。

中央実行系と呼ばれるシステムが長期記憶にある既存の情報と新しく得た情報を照らし合わせながら理解を進めるため、ここで情報の理解に躓くと長期的にも学習に支障がでてしまいます。

身近な働きとしては、聴解・読解問題を解く際、既に処理した情報を頭に残しながら新しい情報を取り入れ理解を進めていくことが挙げられます。

短期的に前の情報を頭に残していなければ、次の情報と繋ぎ合わせ、情報の全体像を掴んで質問に回答することは難しいです。

ワーキングメモリが弱い特徴としては
・集中力の散漫
・指示通りに物事を処理することが困難     

聴解能力の記事で集中力の大事さについて触れましたが、ワーキングメモリも集中力に密接に関係しています。
(言語能力は別として)

例えば、ネットを使って動画を観ているときにネット環境が悪く動画が途切れ途切れになると動画に注がれてた注意がなくなってしまいませんか。
スムーズな情報処理ができずに躓いてしまうと集中力も途切れてしまいます。

(集中力の聴解試験での重要性の記事)

 
ワーキングメモリの上限は7±2
私たちのワーキングメモリが処理できる容量は(対象や情報の種類によりますが)7±2の数と上限があって(電話番号の桁数・単語の音韻数など)、情報の数と同様に情報を取り込む速度もワーキングメモリの処理能力に影響しています。

ここで触れたいのが聴解試験対策としてよく挙げられる方法。
・試験音声を視覚化する(絵を描いたり、光景を思い描いたりなど)
・キーワードを書きとる

これはまるごと情報を処理するとすぐ7±2の上限になってしまうので、一度に処理する情報量を分散させ分けることで処理の負担を減らすというワーキングメモリの特性を生かした方法です。

短期記憶から長期記憶への移行(記憶の二重貯蔵モデル:Dual Storage Model)
記憶の説明でよく使われるのがAtkinsonとShiffrinが唱えた記憶の二重貯蔵モデルです。

長期記憶が短期記憶よりも容量が大きいのですが、その理由は短期記憶で必要な情報が淘汰され長期記憶へと移行されていくためです。

生きるのに必要な情報、“リハーサル”の回数が多い情報、強い印象がある情報は優先的に長期記憶へと送られやすくなります。

“リハーサル”には視覚的リハーサルと聴覚的リハーサルがあります。

視覚的リハーサルでは情報を思い描き(文字なら頭の中で音声化)、聴覚的リハーサルでは耳から情報を得ることを繰り返すことで、その情報が必要なものであると脳に印象付ける行為です。

記憶の特性を利用する
長期記憶へ移行させる方法としてよくあるのが

・覚えたい情報を反復する(リハーサル)
・失敗して印象付ける(エピソード記憶化→人に話すとリハーサル)
・人に話したり、実際に使う(リハーサル)
・五感や感情、既存情報と関連付ける(エピソード記憶化)

エピソード記憶で気を付けたい点は、リハーサルを十分に行っていないと長期記憶に移行した際に、意味ではなくエピソードだけ残ってしまうことがあります。

私が経験した例を挙げると、学校で辞書を使って調べた英語のフレーズがその晩に観た映画にそのまま出てきたということがありました。
あまりにも偶然ですごく驚いたので、その出来事は十年以上たった今も鮮明に覚えています。
でも、そのフレーズがなんだったのかは残念ながら覚えていません。

その逆で、普段使っている単語も意味は覚えていますが、どうやって覚えたかのエピソードは覚えていないと思います。

これは印象の強さから長期記憶へと送られたのではなくリハーサルの多さなどからも意味記憶として定着した例といえるでしょう。

自分に合った方法を探すには特徴の理解から
様々な実験からも万人に同じような成果がでる学習方法を確立することは、現在の技術では困難であるとされています。

同じ方法で学習しても出る結果は人によって差があるという経験、同じだけ勉強しているのに自分よりも結果がいい人がいるという経験をした人は多いと思います。

今回の記憶に関しても、書き写して頭の中で音声化する人や、音読して覚える人など好みも様々です。

好みと照らし合わせて、個々に合った学習方法を模索するためにも記憶の特徴は知っていて損はないと思います😊


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